8x56(ハチゴーロク)と聞くと、私は狩猟用双眼鏡を連想します。でも今回のBlogは、ライフルスコープの8x56、固定倍率です。
以前のBlogで、対物レンズ径56㎜の大型双眼鏡について触れた機会がありました。この56㎜対物径の圧倒的なアドバンテージは明るさです。8x56カテゴリーのレンズ設計には、ポロ、ダハそしてアッベケーニッヒと呼ばれる光学デザインがあり、写真の双眼鏡にはハイブランドで見かけるアッべケーニッヒプリズムが採用されています。
8x56双眼鏡ユーザーの多くは、圧倒数ハンターです。暗所に強いという意味では、天体用にもいけるかもしれませんが、夜空を見上げるには重すぎる点が不向きかもしれません。写真の8x56は1.2㎏あります。
8x56スコープへ行く前にもう少しだけ双眼鏡です。
ヒトの目には明るさを自動調整するメカニズムが備わっています。ひとみと呼ばれるその視覚器官は、日中では2.5-3㎜程度、暗闇では7㎜程度にまで目の採光絞り機能を無意識に機能させています。
8x56双眼鏡を接眼レンズ側から目を少し離したポイントで覗くと、丸い円が見えます。これが8x56双眼鏡のひとみ径、7mmです。この円の大きさは暗所におけるヒトのひとみ径と同じ7㎜。これが ❝明るく見える❞ と感じる理由です。レンズとプリズム材質、コート等の品質により見え方は更に大きく異なります。
【マメ知識】
双眼鏡や、固定倍率スコープのひとみ径は、対物レンズ径 ÷ 倍率で求められます。56÷8=7 といった具合です(8x56の場合)。
前置きが長くなりましたが、これを踏まえて8x56のライフルスコープがあります。
写真は西ドイツ製のツァイス 8x56 ライフルスコープ、インナーレール式。スコープ自体にレールを内蔵しているため、取付けとアイレリーフの調整(スコープを前後)がとても楽です。スコープにある溝にコマを4個入れ、猟銃へ取付けるスコープマウントへ固定します。写真はデントラーマウントのインナーレール対応タイプ。
ズーム式が主流になる前のドイツでは、夕暮れでも明るく見える8x56のライフルスコープが、8x56双眼鏡と併せハンティングに使用されていました。
今もなお、1キロを超える8x56双眼鏡ユーザーがドイツで根強い理由は、この辺の名残りに加え、狩猟スタイルにハイシート猟といった、静的狩猟スタイル(木の上に用意する小屋の中から射撃)が広く浸透していることも理由にあります。
このハンティングスタイルでは、ハンターは常に座っているため、荷物を持ち歩く必要がありません。
ハチゴーロクの双眼鏡を使ってスカウティングしたターゲットを、猟銃に取り付けたハチゴーロクのスコープで捕捉しながら射撃動作へ。というのが一連の流れです。
レンズ越しのターゲット視認サイズが常に一定というのは、デュープレックスや、G4のような近距離用ハンティングレチクルとの相性もよかったのかもしれません。
現在、8x56の固定倍率スコープは極めてニッチではあるものの、製造を継続しているメーカーもあります。
この流れを組む対物レンズ56㎜径の可変ズーム倍率式ライフルスコープは今も売れ筋カテゴリーですが、競争環境の変化に伴う影響を受け始めています。
もともと ❝暗所にい強い❞ という謳い文句のスコープは、ひとみ径7㎜の光学設計スペックだからこそ実現可能な製品でした。一方で、独狩猟業界における規制緩和により、暗所に強いというアドバンテージは、近年現れたサーマルイメージデバイスに取って変わられている現状もあります。
サーマルデバイスを取り付けてしまうと、大型の56㎜径ではなくても、小柄な42㎜対物径レンズでも暗所がはっきり見えるようになるからです。但し、そうは言っても、もちろん暗所での強さだけが大口径の取柄ではなく、高倍率領域における純光学スコープとしての存在感は健在です。
海外の狩猟用光学機器市場では、スコープ周辺のエレクトロニクス化が今までにはないスピードで進んでいます。
狩猟と標的射撃では、光学機器に要求されるニーズはそれぞれ異なりますが、スコープ周辺で活発になっているオプトエレクトロニクス製品の登場により、これまでライフルスコープ本体に求められてきた要素の幾つかは、対物レンズ側と接眼レンズ側への後付けオプトエレクトロニクス製品で補完できる日がくるかもしれません。
今回はクラシックな 8x56 固定倍率スコープのBlogでしたが、ここまでお付き合いをいただきありがとうございました。
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