ドイツと狩猟とおいしい話。ということで、今回はトップに美味しそうな写真を持ってきてみました。このたび、2023年3月2日〜5日の期間でドイツ, ニュルンベルクにて開催されたIWA2023を訪問してまいりました。コロナ前に開催された2019年3月から実に4年ぶりの訪問が叶ったIWAでしたが、大きな変化も見られました。
【看板役の不在】
私は光学機器、特にライフルスコープを専門として独狩猟業界に身を置いてまいりましたが、今回のIWA2023では、欧州ライフルスコープ業界の代名詞と言っても過言ではない2枚看板の不在(Zeiss、Swarovski)は大きなショックでした。
注:ちなみに写真は2018年IWAのものです。
それ以上に、大きな衝撃もあります。ドイツ猟銃メーカー最大手のBLASERグループ(Blaser, Mauser, Sauer, Minox, etc..)、そしてベルギーFNハーシュテル傘下のBrowningとWinchester一派の姿もIWA会場にはありませんでした。
BLASERグループのIWA2023 不参加はコロナが原因ではなく、元々、2018年の時点で2019年参加が最後のIWAという、会社としての方針だったようですが、ドイツを代表するハンティング業界の主役級が不在という状況がもたらす他の出展社に及ぼす影響は小さくありません。
注:ちなみに写真は2018年IWAのものです。
どんよりとした出だしになってしまいましたが、IWA2023自体は私にとっては大変楽しめるB2Bイベントでした。ZeissとSwarovskiのスコープを手にできなかったモヤモヤは残りますが、Blogいってみます。
【光学機器関連ブース】
2023IWAにおける4Aのフロアです。以前は中央付近に大きなブースが構えられていたスワロフスキーの姿はありません。2019年IWAまでは、吊り下げ式の大型看板が天井からぶら下がり、派手な空間ディスプレイが多用されていましたが、今回はかなり地味なフロアデザインです。IWA出展の申込み期限直前まで、参加か否か迷いながらの準備だったのかもしれません。
ここでは個別にはふれませんが、ヘンゾルト、ゼロコンプロマイズ、GPO、サイトマーク、NOBLEX、エイムポイント(順不同)などなど、紹介しきれない数の光学機器を会場内で目にしました。
全ての光学機器ブランドを網羅してみたいところではございますが、ざざっと早足で紹介して参ります。
英国Hawkeのブースです。今回はかなりこじんまりした印象のブースでした。スコープを細かく覗く時間が取れなかったことが残念でしたが、展示物の量からすると。製品の取扱いレンジを少し絞っているのかもしれません。
エレメントオプティックスのブースにも行って参りました。こちらはスウェーデンの FX Airguns AB社 が手掛けるスコープブランドです。
実際に手で触れる機会は初めてでしたが、高品質のライフルスコープに加え、HYPR-7と呼ばれる7x50の光学機器は、個人的に特に面白いと感じる製品でした。年内中には日本にも登場するのかもしれません。
ここでもう少し深堀りしたいギアですが、機会があればまたBlog記事と共に帰ってきます。
PULSARは、リトアニアに本拠を構えるユーコンアドバンストオプティックスワールドワイドと呼ばれる大きな組織が有するブランドの一つです。ウクライナ支援を表明するフラッグが掲げられていました。この辺りは色々あるようです。
ライフルスコープに取付けるサーマル製品が主力です。私自身はこちらの製品を実際の現場で使用した経験がないため、ブースに展示されている製品に触れてみての感想ですが、年々常に新しい機能が付加されているように感じます。
PULSARの新型双眼鏡を取って見ても、レンジファインダーを搭載しつつ、サーマル機能も併せ持つ製品は他にあまり知りません。
外付けではなく、サーマルイメージが搭載されている内蔵型のライフルスコープは、ドイツでは使用が制限(*2023年2月時点では法律で禁止)されていますが、近い将来これが解禁される日がくると、新たな市場が開けますので、この辺も楽しみなところです。
米国のルーポルドブースでは、各シリーズがわかりやすく展示されていました。一度に全ラインナップを実際に手に取って覗くことができる機会は少ないため、米国への出張が稀な私にとってIWAは貴重です。
今回のIWAでは、最後に見かけた3Aフロアにブースを構えていたSIG Sauerが不在でした。米国勢ハンティング系における光学機器ブランドでは、以下で触れるナイトフォース以外にも、大小幾つかのブースが確認できました。
ナイトフォース 2.5-20x50のDark Earthカラーです。キャップとマウントリングも同系色。
ライフルスコープは一般的にブラックが多い中、こうしたカラーも良いなと思うのですが、ドイツの狩猟業界で言えば、実際は黒色の方がセールスは堅実だったりします。そのあたりは、お国柄と所持が許可される銃器の違いに起因するのかなと想像します。
ハンティング市場で流通する光学機器殆ど全ての製品をハンズオンできる国際見本市は本当に貴重です。チェコのメオプタブースにも行ってみました。
ライフルスコープも勿論興味深いのですが、ブースで唯一のいろものを見つけました。今回のIWAを通じてみても、狩猟用としてピンク色のラバー外装をまとった双眼鏡は多分これが唯一だった気がします。4年ほど前にスワロフスキーがオレンジ色の双眼鏡を出しました。ハンターが森で視認しやすいように(*置き忘れなどの防止として)と意識したようでしたが、なかなか主流にはなりにくいのがイロモノです。
日本では、小型双眼鏡のカラバリは進んでいますが、こうした42㎜径のラバー外装カラバリはあまり見たことがありません。
ドイツのライカです。相変わらずライカっぽいブースでした。展示デモ機に用いられているスコープマウントは弊社でも取扱いをさせていただいているデントラーマウントです。
写真は異なりますが、最新モデルとしては、Leica Fortis 6(6倍比)、1.8-12x42i L-4a というオールラウンド向けスコープが市場投入されています。低倍率域は2倍ではなく、更に視野の広角を意識した1.8倍です。
インナーレールを備えたタイプと写真のようなマウントリングを用いるタイプに、レティクルはBDCという組み合わせ。
こちらはシュミットアンドベンダー 3-20x50 PMIIと、エラタックマウントのヘッケラー&コッホ向け専用モデルの組合せ。接眼側と対物側に拡張レールを標準装備し、前方に載っているのはエイムポイントのマイクロ H-2を載せる拡張パーツです。接眼側と対物側にシェード(光反射防止フード)を備えています。
エイムポイント本体は黒ですが、挟むようにあるフードにはセラコートが施されています。
HK G28Zと呼ばれるこのモデル(Kal.308 Win)、下にお値段がありました。12,198ユーロです。為替レート換算で180万円弱ですが、マウントを含む光学機器と全てパッケージだとすると、ちょっといいなと思える方もいらっしゃるのかもしれません。
Marchブランドのディオン光学技研です。日本風、黒色の鳥居を意識した特徴的なブースデザインになっていました。
壁のバックドロップは、シュリケンと呼ばれる新型ターレットを搭載した10倍比シリーズ(8-80x56 Majesta High Master SFP、1.5-10x42、1-10x24 Shorty FFP)と、6倍比の4.5-28x52が大きく押し出されたものになっていました。展示されていた8-80x56も覗いてみました。
他のスコープメーカーとは競争軸を大きくずらしているMarchのライフルスコープへ向き合う開発視点には、毎回びっくりさせられます。
【まとめ】
IWAは消費者向けではなく、B2Bを意識した狩猟ビジネス向けの国際見本市です。しかしながら、懐かしい仲間に会える同窓会のような空気が漂う心地良い場所でもあるこの歴史あるイベントの未来は、他業界と同様に不確実性の中にあります。
例えばドイツでは、カメラメーカーが主役を担ってきた世界最大規模の国際見本市、Photokinaが2018年を最後に休止(*当局としては、再開するかもしれないという可能性は残しているようです。)したままです。日本のCP+2023もコロナを経て4年ぶりに開催されましたが、出展社内訳に目をやると先行不透明という状況にも見えます。
スマホを含む通信を取巻くインフラが地球規模で整ってきたことで、消費者と製造者(大小問わず)のインタラクティブな関係性は、10年前とは比較にならないほど身近に感じられるものになりました。
産業用等を除き、ビジネスの中間媒介者を対象とし成立してきたこうしたB2B型展示会の意義は失われつつある流れですが、メーカーが個別で開催するイベントを含め、消費者は消費の場を求める一方で、製品を通じて得られる体験と、彼らが個別に持つそれぞれの達成欲求を満たす行動支援を求めています。
企業にとっては、これまでの戦い慣れた市場へのアプローチを抜本的に見直し、消費者ニーズに即した思考に自らの事業を変化させるフェーズにあるのが今なのかもしれません。